パトリシア・コーンウェルを集中的に読む。続いては『黒蠅』である。2003年。
調べてみるとパトリシア・コーンウェルは『90年代のベストセラー作家』という紹介がされていることが多い。だから、2000年代に入ってからは、すでに全盛期が過ぎているということではあるんだろうな、と思う。
作品内容にもそれは言えていて、ただ、けっして悪いというものでもない。どれもそれなりに良い。ただ、やたらと欠点が目につく。この世には、読んでいるのさえ苦しくなって、途中でやめる小説もあるのだから、パトリシア・コーンウェルは、その段階はクリアしてると言えよう。
今回は『羊たちの沈黙』のクラリスを小型化したような初々しい女性警察官が登場する。スカーペッタよりはるかに好感が持てるので、活躍を期待したが、前半はよく出てきたのに後半はどこかに消えてしまった。もしかして、行き当たりばっかりで書いてるのか。
アルセーヌ・ルパン時代の大衆小説ではあるまいし、そういうことはないと思うのだが、このへんの計算がパトリシア・コーンウェルはヘタなんだな。今後、こっちの女性警察官を多く出すと良いと思うが、この回だけの使い捨ての気がする。
あきらかに身体障害者の殺人鬼が登場する。これは、漫画だと完全にNGだがパトリシア・コーンウェルだと良いのか。
パトリシア・コーンウェルの大きな問題点の一つが今回も炸裂。この人はクライマックスを書かないという信じがたい悪癖がある。今回だけかと思ったら、他の本でも毎回やっている。計算してやってるとしたら、その狙いを理解できない。
一番、かんじんな部分は読者の空想力に自由に任せたいのです、とでも言うのだろうか。または、話を終わらせないで次回に続けるため、なのかとも思ったが、犯人が逮捕されてる場合でも、書かないからな。
小説を書く力がないので、一番盛り上がる部分を書いて失敗しないように、書かないで終わらせてるんじゃないか、という邪推すらしているがどうなのだろうか。
今回も、あと5pくらいしかないが、どうやって終わらせるのかと思ったら、次のページをめくったら、全部終わっていた。10年前のインターネットなら、『全部終わっていた(笑)』と書くところである。
刑事が乱入して、主要犯人は逃亡、小物が射殺された、と二行くらいで済まされていた。なんだこりゃ。ちょっと驚いたな。これでいいのか。
スカーペッタ・シリーズの致命的な欠点のひとつにスカーペッタが検屍官である、という根本的なものがある。刑事じゃないので、あたりまえだが、捜査をするわけでもなく、犯人を逮捕するわけでもないのだな。
そのために、主人公が逮捕シーンにはあまり関係ない、活躍のしようがない、というのが、このようにクライマックスがなくなってしまう原因の一つかもしれない。
ここは頭を使って、どうにかしてスカーペッタが逮捕シーンにからむようにエピソードを工夫して、あと100Pくらいページを増やしたほうが、読者がカタルシスを体験できて良いと思う。
他にも欠点がいろいろ見えているのだが、それはあとの回で書く。
内容紹介
バージニアを離れ新天地を求めた彼女。だが悪夢は終わってはいなかった。検屍局長辞任から数年後、フロリダに居を移したスカーペッタに、死刑囚となった〈狼男〉から手紙が届く。「あなたが死刑を執行してくれ。さもなければ、また何人もが命を落とす」時を同じくしてルイジアナで女性ばかり10人もの連続誘拐殺人事件が発生。彼の犯行ではないのか? 検屍官シリーズ待望の第12弾! (講談社文庫)
内容(「BOOK」データベースより)
検屍局長辞任から数年後、フロリダに居を移したスカーペッタに、死刑囚となった“狼男”から手紙が届く。「あなたが死刑を執行してくれ。さもなければ、また何人もが命を落とす」時を同じくしてルイジアナで女性ばかり十人もの連続誘拐殺人事件が発生。彼の犯行ではないのか?検屍官シリーズ待望の第12弾。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
コーンウェル,パトリシア
マイアミ生まれ。警察記者、検屍局のコンピューター・アナリストを経て、1990年『検屍官』で小説デビュー。MWA・CWA最優秀処女長編賞を受賞して、一躍人気作家に。バージニア州検屍局長ケイ・スカーペッタが主人公の検屍官シリーズはDNA鑑定、コンピューター犯罪など時代の最先端の素材を扱い読者を魅了、1990年代ミステリー界最大のベストセラー作品となった
相原/真理子
東京都生まれ。慶応義塾大学文学部卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
にほんブログ村←気に入ったら投票してください。