ディーン・クーンツの『オッド・トーマスの霊感』 。2009年である。
クーンツは80年代の全盛期だけすごく良くて、その後、日本の出版が超訳の出版社に変わったあたりから、目も開けられないほど、クオリティが下がった。クーンツも悩んで迷走しているようで、コメディを書いていたりした。しかも、そのギャグがどれひとつおもしろくない、という目を覆うような惨状だった。
それで久しぶりに早川書房に戻ってきた。たぶん、もう70歳近くになってると思うのだが、晩年になって、また復活してようで、これはけっこう良い。最高に良くはないが、なかなか良い。低迷期よりは、はるかに良い。
珍しくシリーズ化したので、評判も良かったのだろう。たぶん、死ぬまで、これだけでいくのではないか。
クーンツの割にはがんばって、キャラクターの人間描写で家族問題などを扱って、ドラマに深みを与えようとしているのだが、もともと、そういう作家ではないので、いかにも取って付けたような描写になっているのが、ほほえましい。
主人公の青年が、クライマックスの前に、まずお父さんに会いに行く。そこでお父さんとの葛藤と家族の問題が描かれる。そこまではいいのだが、次にお母さんに会いに行く。そっちでも、お母さんとの葛藤と家族の問題が描かれる。
こういうのがヘタなのだな。順番に取って付けたように行くこともないと思う。家族問題はどっちかだけにしたほうが良かったんじゃないかな。または、片方の親は、ストーリー中に分散して出しておいて、大きい問題の親の方だけ、山場の前に持ってくるとか。グロとストーリー展開の速さだけが売りの作家なので、こういうのは、得意ではないのである。
とはいえ、これはなかなか出来が良い。低迷したまま終わるかと思っていたので、うれしい。
内容紹介
オッド・トーマスは南カリフォルニアの町ピコ・ムンドに住む20歳のコック。彼には特異な能力があった。死者の霊が目に見え、霊が伝えたいことがわかるのだ。ある日、オッドは勤務先のレストランで悪霊の取り憑いた男を見て、不吉な予感を覚える。彼は男の家を探し出して中に入るが、そこで数多の悪霊を目撃した。そして翌日に何か恐ろしいことが起きるのを知るが……巨匠が満を持して放つ最高傑作シリーズ、ついに登場!
内容(「BOOK」データベースより)
クーンツ,ディーン
1945年ペンシルヴェニア州に生まれる。子供のころから小説を書き始め、大学を卒業後、数々のアルバイトをしながら小説家をめざした。1968年、長篇第一作となるSF、Star Questを出版。以後、SF、ゴシック・ロマンス、サスペンス小説などをさまざまなペンネームで次々と書き上げた。サイコ・サスペンスの『ウィスパーズ』(1980年)とモダンホラー『ファントム』(1983年)で人気作家の地位を築いたあとは、『ストレンジャーズ』(1986年)、『ウォッチャーズ』(1987年)など、ベストセラー小説を続々と生み出している
中原/裕子
東京生まれ、英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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