キム・スタンリー ロビンスン のレッド・マーズである。帯で絶賛されているが、聞いたこともない作者の場合は注意が必要だ。外すことが多い。
これも外してるとまでは言わないが、なかなか微妙なところのある作品で、決しておもしろくないとは言わないのだが、疑問の箇所が多い。
一番の疑問は主役級の男がライバルで親友の男を殺してるように見える描写が始めのところにあるのだが、これは終わりの方で『実は殺しているように見えたが違っていた』などとなって解決するのかと思ったら、なにもなかった。そのまま、殺していたようだ。正確には死に追いやった、だが。ようするにたんに妬みで殺している。
これは娯楽小説的にはどうなのだろうか。現代はバローズの時代のような単純な勧善懲悪ではなくなったが、主役級の人間が悪をなしたら、それなりの合理的な理由付けなどの仕掛けがないと、娯楽作品としてはバランスが取れないのではないか。『悪人が主役の悪漢物語』となるともちろん話は別なのだが。
この辺は科学者の作者が初めて書いた小説なので、たんに小説がへただったということなのではないか。ただそのかわり、おもしろい世界観が充溢していて、この小説の登場人物の扱いは、悪人も善人もフラットなのである。
悪人と善人というと単純すぎるかもしれない。いい奴と悪い奴と言えばいいのか。これが高度な技法なのか、東洋哲学的な超越した思想なのか、作者に倫理観が乏しいのか、人間には興味がないのか、たんなる未熟なのかは、よくわからない。このへんの部分は発展させると、別な小説的なおもしろさが出てくる可能性を感じた。こっちには行かないとは思うが。
こういう人間ドラマの描写には疑問が残るが、スケールの大きさや科学的な描写は見事なもので、ドラマ以外の部分はよくできている。
レッド・マーズ (創元SF文庫) 文庫 – 1998/8
キム・スタンリー ロビンスン (著), Kim Stanley Robinson (原著), 大島 豊 (翻訳)
【ネビュラ賞・英国SF協会賞・星雲賞受賞作】
人類は火星への有人飛行を成功させ、その後無人輸送船で夥しい機材を送り出した。そして2026年、厳選した百人の科学者を乗せ最初の火星植民船が船出する。広漠たる赤い大地に人の住む街を創るのだ。惑星開発めざし前人未到の闘いが始まる。NASAの最新情報にもとづく最高にリアルな火星SF。
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